新美南吉の『でんでんむしのかなしみ』について

弊社出版の『でんでんむしのかなしみ』(新美南吉 作/、井上ゆかり 絵)の絵本が、この一週間で300冊以上の注文があり、大変喜んでおります。
皇后陛下美智子さまが、第26回IBBYニューデリー大会(1998年)基調講演にて、「子供の本を通しての平和 子供時代の読書の思い出」というお話をされましたが、その中で『でんでんむしのかなしみ』についても、以下のように触れられております。

「まだ小さな子供であった時に,一匹のでんでん虫の話を聞かせてもらったことがありました。不確かな記憶ですので,今,恐らくはそのお話の元はこれではないかと思われる,新美南吉の『でんでんむしのかなしみ』にそってお話いたします。そのでんでん虫は,ある日突然,自分の背中の殻に,悲しみが一杯つまっていることに気付き,友達を訪ね,もう生きていけないのではないか,と自分の背負っている不幸を話します。友達のでんでん虫は,それはあなただけではない,私の背中の殻にも,悲しみは一杯つまっている,と答えます。小さなでんでん虫は,別の友達,又別の友達と訪ねて行き,同じことを話すのですが,どの友達からも返って来る答は同じでした。そして,でんでん虫はやっと,悲しみは誰でも持っているのだ,ということに気付きます。自分だけではないのだ。私は,私の悲しみをこらえていかなければならない。この話は,このでんでん虫が,もうなげくのをやめたところで終っています。

あの頃,私は幾つくらいだったのでしょう。母や,母の父である祖父,叔父や叔母たちが本を読んだりお話をしてくれたのは,私が小学校の2年くらいまででしたから,4歳から7歳くらいまでの間であったと思います。その頃,私はまだ大きな悲しみというものを知りませんでした。だからでしょう。最後になげくのをやめた,と知った時,簡単にああよかった,と思いました。それだけのことで,特にこのことにつき,じっと思いをめぐらせたということでもなかったのです。

しかし,この話は,その後何度となく,思いがけない時に私の記憶に甦って来ました。殻一杯になる程の悲しみということと,ある日突然そのことに気付き,もう生きていけないと思ったでんでん虫の不安とが,私の記憶に刻みこまれていたのでしょう。少し大きくなると,はじめて聞いた時のように,「ああよかった」だけでは済まされなくなりました。生きていくということは,楽なことではないのだという,何とはない不安を感じることもありました。それでも,私は,この話が決して嫌いではありませんでした。」
(宮内庁ホームページhttp://www.kunaicho.go.jp/okotoba/01/ibby/koen-h10sk-newdelhi.html「第26回IBBYニューデリー大会(1998年)基調講演」より)

福沢諭吉』の絵本の共著者の杏林大学 元教授の相磯(草場)裕先生、NHKテレビ「おかあさんといっしょ」「なかよしリズム」NHK海外取材番組「童話の国々」等の元ディレクター、東京家政学院大学 元教授の五十野惇先生との対談の映像もありますので、ご興味のある方はご覧になってくださいね。


小野忠男の親子で楽しむ絵本の世界シリーズ~でんでんむしのかなしみ~作/新美南吉、絵/井上ゆかり、お話/五十野惇、草場(相磯)裕、読み聞かせ/築野友衣子 2017年12月制作

でんでんむしのかなしみ

でんでんむしのかなしみ